写真館なのに、うちはなかなか撮り始めません。はじめて来られた方は、たいてい一度「まだ撮らないんですか」という顔をされます。
まず、話すからです。今日はどんな日なのか。誰がいちばん緊張しているのか。話しているうちに、カメラの前の「よそいき」が少しずつほどけて、いつもの家族の空気が戻ってきます。
いちばんいい顔は いつ出るか
長くこの仕事をしてきて、ひとつだけ確信していることがあります。いちばんいい顔は、撮られていることを忘れた顔だということです。
「はい、撮りますよ」と言った瞬間、人は少しだけ固くなります。だから僕は、その一言をなるべく言いません。話して、待って、家族の誰かが笑ったその流れの中で、そっとシャッターを切ります。
きれいに並んだ一枚より、いつもの顔が並んだ一枚のほうが、何年たっても見飽きない。
待ち時間も 写真のうち
子どもがぐずったら、泣きやむまで待ちます。おじいちゃんの背筋がすっと伸びる瞬間も、待ちます。その待ち時間に流れている家族の空気ごと、一枚に写るからです。
シャッターを急がないのは、遠回りのようでいて、いちばんの近道だと思っています。