設計は、図面を描く仕事ではありません
誰かの一日を聞き切って、それを線にする。私たちがしているのは、たぶんそれだけです。
聞くのは、家の話ではありません。
朝起きてから夜眠るまでの、順番です。
はじめての打ち合わせで、図面の話はしません。朝、何時に起きますか。目が覚めて最初にどこへ行きますか。誰が先に家を出ますか。夜は、どこに座って過ごしますか。そういうことを、順番に伺います。
ここで出てきた順番が、そのまま平面の並びになります。順番が決まっていない状態で線を引くと、あとから必ずどこかが噛み合わなくなる。だから、間取りは最後に描きます。
決めていること
- 001
流行りの外観は、描きません。
十年後に古びるものを、住む人に押しつけたくないからです。いま雑誌に載っている形は、十年経つと必ず「あの頃の家」に見えます。そこに住み続けるのは、私たちではありません。
- 002
工期を縮めるための省略は、しません。
見えなくなる場所ほど、あとから直せないからです。下地、断熱、防水、金物。竣工したら誰の目にも入らない場所が、家の寿命をほとんど決めています。
- 003
一度に何軒も、進めません。
一日の話を聞き切るのに、それだけ時間がかかるからです。同時に抱える数を増やすと、聞くべきことを聞かないまま線を引くことになります。
- 004
聞き取りをした人間が、最後まで通います。
着工から引き渡しまで、担当を替えません。話を聞いた人間と、現場で判断する人間が同じであること。それだけで、決めたことが薄まらずに建ちます。
名前のこと
イトナミは、営みと、糸並みから採りました。
図面は線の集まりです。一本ずつは、ただの線でしかない。けれどその一本ずつが、朝起きて夜眠るまでの誰かの動きから引かれています。並べると、家の形になります。